農林水産省北陸農政局では、平成11年より「国営九頭竜川下流農業水利事業」に取り組んでいます。これは新しくダムを造ったり、水路を引いたりするのではなく、「農業用水の再編」によって、水資源の合理化を図ろうという新しいタイプの事業です。いわば、越前平野の千年におよぶ水利資産の再構築。
幹線水路のパイプライン化によって生み出される余剰水を、塩害による被害を被っている九頭竜川左岸地区など3つの地区に水源転換します(概念図参照)。また、パイプライン化によって、水路への家庭ゴミ、都市排水の混入防止などが図られ、大幅な維持管理費の節減が可能となります。農業以外に、次のような効果が期待されています。
1.地域用水機能の増進
水路の跡地では、「せせらぎ水路」を整備するなどして、防火や生活用水、景観の向上などに寄与することで、地域の資産の形成が期待されます。
2.水道の水質の向上
用水と排水の分離によって、すでに農業用水路を利用している福井市水道用水の水質がより向上します。
3.用水路への転落事故の防止
これまで開水路で多発していた水難事故は、パイプライン化により皆無となります。
4.河川改修の促進
事業による水源転換により兵庫川旧堰の撤去が可能となるので、河川改修の促進が図られます。
5.水路跡地の有効利用
パイプラインの総延長は49km。その上部には実に30-40haの跡地が生み出されます。これは福井市の運動公園(約29ha)に匹敵する広大さ。親水公園、サイクリングロード、花壇など地域住民の創意工夫による有効的な活用が期待されます。
水路跡地の有効利用については、すでに用水路が流れる地区の住民や小学生によって、ユニークな空間を創出しようとする様々な試みがなされています。
この跡地の有効利用をテーマにワークショップを開催しており、各地の小学校でも子供ワークショップや夏休みの宿題のテーマとなったりしています。
この歴史的資産が、市民の身近な存在として親しまれ、愛される―――千年かけて守り抜いてきた先人達の真の悲願は、実はこんな平凡なことだったのかも知れません。