国土をうるおす水の循環

 「水の惑星」とまでいわれる地球。その地球上の水は、自然のしくみによって循環している。太陽からのエネルギーを受けて海や陸から蒸発して雲となった水は、雨や雪となって地上に降り、一部は蒸発するが、残りは河川の水や地下水となってやがて海に戻る。地球上の水の大部分は海水(96.5%)であり、利用の対象となっている水は、河川・湖沼の水や地下水など、ごく一部にすぎない。
 わが国では1年間の降水量は約1,800mmと比較的多い。しかし、梅雨期や台風時に集中するなど、季節によるかたよりが大きい。また島国で急峻な地形のため、降った雨は短時間に海へ流出してしまう。そのため、人間が容易に利用できる水は必ずしも多くない。そのうえわが国は、人口が多く経済活動も活発な高密度化社会であることから、水利用には多くの努力を必要としている。


地球の水

 日本の水利用の状況についてみると、昭和61(1986)年度現在、全使用水量891億m3/年のうちの約3分の2の585億m3年を農業用水が占めている。今後の需要見通しにおいては、工業用水・生活用水等の都市用水の増加に比べ、農業用水の増加率は低い。そのため、全用水量の中での農業用水の比率は低下するものの、なお過半の用水量を占めることが予想される。


 農業における水利用の特徴は、工業用水や生活用水と異なり、たとえば、梅雨の雨をできるだけ利用して田植えを行うなど、自然の水循環を最大限に活用し、自然と融合した形で利用されていることである。
 水田に湛水され稲作に役立てられた水は、植物体での吸収と蒸発で消費される以外は、大部分が地下水となったり排水路に流出したりして、再び下流で用水として利用される性格をもっている。一般的には、河川の上流部で農業用水として数度にわたり利用されそれが河川に還元されて下流部で再び農業用水や都市用水として再利用されている場合が多い。農業においては、古くからこのように広い地域で水がくり返し利用されることを生かして水利秩序が形成されているため、農業用水の使用の変化が水系全体の水利用に大きな影響を与えることにもなっている。
 また、都市用水の場合は使用する過程で著しく汚濁するのが一般的であるが、農業用水は地表や川を流れているうちに酸素を吸い込み、土壌を通って地下水となったり、下流の排水路などに流出する間にろ過されて浄化される。反復利用の過程で、自然力がはたらいて浄化されるのである。

 こうした自然の水循環を巧みに活かした農業用水は、農村の生活用水の源にもなり、また農村地域の気候の温和化に貢献し、水のある風土は人々の心を和ませるのに役立っている。
 このような機能は、他種の利水にはみることができないものであり、これが農業水利の特徴の最も基本的なものであるといえる。



伊那谷に広がる水田
一面の水田は、水を受けとめ、浸み通らせゆっくりと流す。地域の水循環を安定させる基幹的な要素である。


琵琶湖岸における水利用
地形とそれに応じた用水状況のもと、異なるかんがいシステムが成立した。上流で使われた水は、地表を流れ、あるいは浸透して下流の水源となる。湖に達した水は再びポンプで上流へ送られ利用される。集落や工場は扇状地末端の湧水地帯に立地しており、大きな水の循環のうちにある。